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standup_02d   3 / 7

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02 …?俺も…、全然..だめだっ…たね」緑さんを指さ し、「先生、あれ…?」「いい..先生…。美人だし …」「でも..怒..ると…怖いよ..」ここで三島先生 の表情が和みます。マイクを持つ身振りで「行 く?」とカラオケに誘いました。  病院のカラオケ室、探しにやってきた緑さん と中山さんは、三島さんに歌を歌わせようとしま す。「大都会」のリズムに合わせて、「アー、アー」 「3、4」のかけ声に、思わず三島先生の口から 「アー」と声が出ます。緑さんは大喜び、中山さ んは「どうだ」と言わんばかりの得意げな表情で した。  ある日、友人の広瀬さん夫妻が高校の卒業 アルバムを持ってやってきました。三島先生は明 らかに関心を示します。「これ、わかるか。担任の ポンポコだよ」深く頷く三島先生。自分から写真 を指さします。「これは、誰か知りたがってる」とい う緑さんのことばに、三島先生は「これは…」と、 初めて意味のあることばを発しました。  身を寄せる「理容トヨサキ」で緑さんの父勝さ んの晩酌に付き合っている三島先生。なつか しく昔を語る勝さんのことばから、昔緑さんが自 分の子供を流産していたことを知ってしまいまし た。勝さんも、娘を傷つけた男が三島先生であっ たことを知ります。激しい怒りの中で酔いつぶれ てしまった勝さん。激しく動揺した三島先生は、 勝さんに土下座した後、「理容トヨサキ」を出て いきました。 第7話  お世話になった「理容トヨサキ」を出て行方を くらませた三島先生。ようやく探し出した緑さん に、「許してくれ」と話します。ことばがさらに回復 しています。  翌日は、1人で帰っていった緑さんにメールを します。届いたメールは、家とピアノの絵文字だ けのメール。三島先生は漢字はだいぶ書けるよ うになっていましたが、仮名書字はまだ難しい状 態であると思われます。仮名文字を打とうとして、 打てずにあきらめてしまったのかもしれません。か わいらしい絵文字が、ことば以上に気持ちを伝 えるメールとなりました。 最終話  夜のコンビニ。働いている女性は緑さんでし た。胸には「豊崎」の文字。そこへ入ってくる客。 見上げると、三島先生が立っていました。「やっ と見つけた」逃げようとする緑さん。「もう放さな い。絶対」三島先生は半年前に比較して、さら にことばが出やすくなっているようですが、まだ片 言であり、自由に話せる状態にはなっていないよ うです。  それから3年後の春。朝の光がさす部屋。緑さ んと三島先生が暮らす家のようです。緑さんは、 4コマ漫画を用いて三島先生とことばの練習を 行っています。「では、この漫画を説明してくだ さい」「男の子…が、…駄々…を…こねて…い ます…。お..母さん..が…怒って..先に…い…っ て..心配…して…の…ぞく…と…男の…子…も …陰から…のぞ..いて..いました」言い終えて「ふ うっ」と息をつく三島先生。「駄々をこねる」「陰 からのぞいていました」など、漫画を説明するた めに必要な、難しいことばが想起されています。 また、比較的長い文を話すことができ、文は最 後まで完結していました。その結果、概ね適切に 漫画のあらすじを説明することができています。 このことから、三島先生のことばの状態は、3年 前に比べて大きな回復を示し、自分の意志を伝 えることができるレベルに到達していることがう かがわれます。  ただし、ことばを思い出すのにやや時間がか かることに加えて、発話速度がゆっくりであるこ と、ことばがとぎれとぎれになり、ときどきつっか かったりするなど滑らかに話せていないことから、 発語失行の症状が残存しています。だいぶよく なってはいますが、失語症の症状が全くなくなっ てはいない状態ということができ ます。  三島先生の回復は、年齢が 若かったこと、知的に高いレベ ルに保たれていたこと、損傷部 位が言語中枢を直撃していな かったこと、などによると考えられ ます。しかし何と言っても、ベテ ラン言語聴覚士がそばに寄り 添い、適切なリハビリを継続して きたことが、回復がもたらしたと いえるかもしれません。  三島先生が、小学校の保健 室で生徒の検診をしています。 「先生は世界的なスーパードクターって、ほんと ですか」子供に問いかけられ、「昔の話」と、笑顔 で優しい声で語ります。小学校の校医として、働 いている様子です。  緑さんの、手術から5年目の検診の日がやっ てきます。この日、幸絵さんと再会した三島先生 は、幸絵さんに「あの時はありがとう。君が教えて くれなかったら、あのまま会えなかったかもしれな い」と話しかけます。幸絵さんは三島先生のこと ばの回復に驚き、「そんなにしゃべれるようになっ たんだ。緑さんのおかげね」と話します。失語症 の回復は、一日一日は感じられなくても、久しぶり に会った人ははっきりと感じ取ることができます。  このあと、物語は悲しい結末を迎えます。緑さ んに癌の再発が見つかり、癌は手術不可能な 場所にあり治療方法がありません。三島先生の 決断により、緑さんは潤さんと健太くんの家に戻 り、夫、子供、父、友人らに囲まれ、最後の暖か な時間を過ごします。  葬式にも出なかった三島先生が引きこもって いる部屋に、緑さんの父勝さんから、なつかしい カセットテープが届けられます。高校時代に自分 が編集して緑さんにあげた思い出の品。曲を聞 きながら、号泣する三島先生。こうして、初恋の 後16年目の再会から5年間を描いた物語の幕 は、静かに閉じられました。  緑さんの人生は、波乱に満ちたものでした。緑 さんはどん底の状態から立ち直るために、言語 聴覚士という職業を選びました。結婚し、子供を 産んだ後も、言語聴覚士として生き生きと患者 さんに寄り添い、生きてきました。  人の心と心をつなぐこと、そのためにことばを 取り戻すこと、ことばがなくても心が伝わること、 心が伝わる瞬間が大切なこと。言語聴覚士は、 それを伝えられる専門職でありたいと願います。 緑さんは、たくさんの笑顔と優しさを残し、専門職 の誇りを私たちに伝えてくれました。  ありがとう、言語聴覚士、村上緑さん。